浜松八幡宮は静岡県浜松市中区八幡町の神社。
仁徳天皇が遠津淡海の海運安穏のため、海の神である玉依姫命（たまよりひめのみこと）を、許部の里（現・浜松市小沢渡町）に勧請した許部神社がその始まりという。天慶元年（938）、現在地に遷座されたが、その際、白狐が老婆の姿となって、「浜の松」を移し植えたことから、「浜松」の地名となったと伝えられている。
浜松八幡宮は古くから武家の信仰が篤く、永承 6年（1051）、源義家（八幡太郎義家）が前九年の役で陸奥に出陣の際に、浜松八幡宮に参籠し、源氏の氏神である八幡社を喜び、歌を詠み、社前の楠の木の下に旗を立てて武運を祈願したとの伝承（御旗楠の伝承）がある。
元亀元年（1570）、家康公は居城を岡崎城から浜松城に移して以来、源義家の東征祈願の由緒があり、さらに浜松城の鬼門鎮守の氏神である浜松八幡宮を、祈願所として幾度となく参拝しており、武運長久を祈ったと伝えられている。家康公と浜松八幡宮には次のような伝承が残っている。
元亀 3年（1572）12月、三方ヶ原合戦に敗れた家康公は、天林寺に入り、義俊和尚の案内で浜松八幡宮へと逃れて社前の楠の洞穴に潜み、武田勢の追手を逃れて武運を祈願したという。すると、楠の上に瑞雲が立ち昇り、神霊が白馬に跨って浜松城の方へと飛び立ったといわれ、家康公はこれを見て、「戦われに利あるべし」と勇躍、無事に浜松城に戻ると武田軍の浜松入城を防いだといわれる。このことから社前の楠（御旗楠）を「雲立楠（くもだちのクス）」と称するようになったと伝えられている。その後も天正14年（1586）に居城を駿府城に移すまで、家康公は浜松八幡宮を祈祷所として、旗、神馬を奉納したという。
浜松八幡宮は、その後、豊臣秀吉の命により、小田原の陣の軍資金調達のために神領を削減没収されたりもしたが、家康公が征夷大将軍に任ぜられて江戸に幕府を開くと、50石の朱印地を与えらている。これは江戸時代を通じて変わることはなかったが、明治維新を迎えると新政府によって上地とされ、郷社に列せられた。
御神木の「雲立の楠」（クモタチノクス）には数々の伝説が残り、昭和27年（1952）に静岡県の天然記念物に指定されている。